
國枝 学 |
本題に入る前に膀胱の機能について簡単に説明しておこう。腎臓で作られた尿は尿管という細い管を通って膀胱に流れ、ここで一時的に貯められることになる。膀胱は腹部の最下部、骨盤部の中央にある袋で、個人差はあるが成人でおよそ200ccから400ccの尿を貯めることができる。 膀胱はよく伸び縮みする筋肉でできており、空のときはしぼんだ袋状、いっぱいになると丸く膨らむ。膀胱に尿が貯まってくると、その圧力を感じ、脊髄を経て脳にシグナルが発信され、このときに尿意を感じることになる。膀胱に尿が貯まっている段階では、膀胱の排尿筋は弛緩し、膀胱の出口にある尿道括約筋は収縮した状態となっている。脳が「おしっこをする」と判断すると、膀胱の排尿筋は縮み、尿道括約筋が弛緩して、尿が排出される。
膀胱にはこのように蓄尿と排尿という機能があるわけだが、過活動膀胱はこれが正常に動かない場合のひとつの状態を示している。
「過活動膀胱は尿意切迫感を有し、通常は頻尿及び夜間頻尿を伴い、切迫性尿失禁を伴うこともあれば、伴わないこともある状態を指すと定義されています。尿意切迫感とは突然止めようもないような強い尿意が出現する状態、切迫性尿失禁とは尿意切迫感と同時(あるいは直後)に尿を漏らしてしまう状態を指します。これらの症状は膀胱の筋肉が不随意に(自分の意に反して)収縮してしまうことで起こります。過活動膀胱の診断基準で最も重要なのは尿意切迫感があることです」。過活動膀胱の診断基準に頻尿が含まれているが、この回数の目安も、昼間の排尿回数が8回以上、夜間は通常行かないので1回以上とされている。男女差はほぼないといえる。
國枝副院長のお話では、泌尿器科の領域で過活動膀胱という言葉自体は以前から使われていたものだという。
「膀胱内圧測定などの検査を行った上で排尿筋の不随意な収縮が認められた場合に、専門用語として過活動膀胱という言葉を使っていました。しかし、世界的に患者数が増加傾向にあることを背景に、一般の内科医でも診断できるようにしようと、2002年に国際禁制学会でガイドラインを策定し、日本排尿機能学会がそれを和訳したのです。以前は患者さんに負担のかかる検査をした上で診断していましたが、治療の裾野を広げるためにも、症状だけで診断がつけられるようになりました」。
診断をつける際、他の疾患があることで過活動膀胱と似たような症状を示す場合もある。このためガイドラインでは除外診断も明確化している。感染症やがん、結石などがある場合は除外され、血尿や尿の汚れ、残尿、疼痛がないかが重要となる。項目としては以下の内容があげられる。
@膀胱の異常(膀胱がん、膀胱結石、間質性膀胱炎)
A膀胱周囲の異常(子宮内膜症など)
B前立腺・尿道の異常(前立腺がん、尿道結石)
C尿路感染症(細菌性膀胱炎、前立腺炎、尿道炎)
Dその他(尿閉、多尿、心因性頻尿)
米国で過活動膀胱に悩む患者さんの数は3300万人にも及ぶといわれている。慢性疾患の有病率で比較すると、関節炎、慢性副鼻腔炎の3400万人に次ぐもので、高血圧や心疾患、喘息、糖尿病などを上回る数値を示している。
冒頭紹介したように日本においては800万人以上の潜在患者がいると推定されている。日本排尿機能学会が2002年、40歳以上の男女4470人に行ったアンケート調査によると、12.4%に過活動膀胱の症状がみられたという。これを日本の40歳以上の人口(6640万人)に換算し、約800万人と推定されているわけだが、実際に治療を受けているのは70万人から80万人ほどとされ、まだまだ過活動膀胱を病気として認知していない人が相当数に上ることが伺える。
また、過活動膀胱の有病率を年齢別にみると、40代は4.8%だが、80歳以上になると36.8%にまでに跳ね上がっている。明らかに加齢と共に増加する傾向があるため、今後ますます病気の周知が求められるといえる。
さて、世界的にこれだけの潜在患者数が見られている過活動膀胱、いったいどのようなことが原因で発症するのだろうか。
「基本的には神経が原因となる神経因性の場合と、非神経因性の場合に分かれます。神経因性の場合は脳や脊髄の障害が原因となります。大脳と脊髄をつなぐ脳幹部には排尿を行うための基本的な中枢があり、神経経路に障害を起こすと膀胱と尿道の機能に影響を及ぼします。原因疾患としては、脳血管障害、パーキンソン病、認知症、脳腫瘍、髄膜炎、脊髄損傷、多発性硬化症、脊髄腫瘍、頸椎症、脊柱管狭窄症、脊髄血管障害など脳と脊髄に関わる多くの病気があげられます。
非神経因性の場合は前立腺肥大症をはじめとする下部尿路閉塞が原因となります。尿の出にくい状況が続くと、何とか尿を出そうと頑張るために膀胱に負担がかかり、これが繰り返されることで膀胱の筋肉に異常を来します。その結果、少しの刺激に過敏に反応するようになり、過活動膀胱になることがあるのです。
このほか、過活動膀胱は加齢が原因となることもありますし、骨盤低筋の脆弱化によっても起こります。骨盤低筋のトラブルはとくに女性に見られがちですが、加齢や出産によって膀胱や子宮、尿道などを支える骨盤低筋が弱くなり、排尿のメカニズムがうまく働かなくなることが原因です。
さらに特発性といって原因がよくわからない場合もあります。さまざまな原因が複雑に絡み合って起こるとも言われ、特発性は過活動膀胱の最も多い原因となっているのが現状です」。
冒頭紹介したように日本においては800万人以上の潜在患者がいると推定されている。日本排尿機能学会が2002年、40歳以上の男女4470人に行ったアンケート調査によると、12.4%に過活動膀胱の症状がみられたという。これを日本の40歳以上の人口(6640万人)に換算し、約800万人と推定されているわけだが、実際に治療を受けているのは70万人から80万人ほどとされ、まだまだ過活動膀胱を病気として認知していない人が相当数に上ることが伺える。
また、過活動膀胱の有病率を年齢別にみると、40代は4.8%だが、80歳以上になると36.8%にまでに跳ね上がっている。明らかに加齢と共に増加する傾向があるため、今後ますます病気の周知が求められるといえる。
さて、世界的にこれだけの潜在患者数が見られている過活動膀胱、いったいどのようなことが原因で発症するのだろうか。
「基本的には神経が原因となる神経因性の場合と、非神経因性の場合に分かれます。神経因性の場合は脳や脊髄の障害が原因となります。大脳と脊髄をつなぐ脳幹部には排尿を行うための基本的な中枢があり、神経経路に障害を起こすと膀胱と尿道の機能に影響を及ぼします。原因疾患としては、脳血管障害、パーキンソン病、認知症、脳腫瘍、髄膜炎、脊髄損傷、多発性硬化症、脊髄腫瘍、頸椎症、脊柱管狭窄症、脊髄血管障害など脳と脊髄に関わる多くの病気があげられます。
非神経因性の場合は前立腺肥大症をはじめとする下部尿路閉塞が原因となります。尿の出にくい状況が続くと、何とか尿を出そうと頑張るために膀胱に負担がかかり、これが繰り返されることで膀胱の筋肉に異常を来します。その結果、少しの刺激に過敏に反応するようになり、過活動膀胱になることがあるのです。
このほか、過活動膀胱は加齢が原因となることもありますし、骨盤低筋の脆弱化によっても起こります。骨盤低筋のトラブルはとくに女性に見られがちですが、加齢や出産によって膀胱や子宮、尿道などを支える骨盤低筋が弱くなり、排尿のメカニズムがうまく働かなくなることが原因です。
さらに特発性といって原因がよくわからない場合もあります。さまざまな原因が複雑に絡み合って起こるとも言われ、特発性は過活動膀胱の最も多い原因となっているのが現状です」。
過活動膀胱の治療は薬物療法が第一選択肢として行われる。有用性、安全性の点から最も多く使用されているのが、経口の抗コリン剤と呼ばれる薬で、約8割の患者さんに効果があるという。
「少し専門的な言い方になりますが、神経伝達物質であるアセチルコリンが膀胱のムスカリン受容体(神経を働かせるための信号を受け取る部分)に結合すると、膀胱が収縮します。抗コリン薬はその収縮を抑制する働きをもっています。
しかしながら、ムスカリン受容体は全身にもあり、抗コリン薬が他の部分にも効いて副作用を起こすことがあります。その最も多い症状が口渇と便秘です。近年は副作用の少ない薬が開発されており、また、貼付薬や座薬も開発中で、治験中の段階だと聞いています」。
薬物療法と並行して行動療法を行うと、より治療効果が高まるという。行動療法は患者さんに応じてさまざまな指導が行われているが、大まかな内容として@生活指導A膀胱訓練B理学療法C排泄介助、の4つに分類することができる。
生活指導では、水分や利尿作用のあるカフェインを摂り過ぎだったり、尿漏れがあれば、それに対応する生活習慣を身につけられるよう指導する。頻尿の場合は外出前にトイレの場所を確認しておいてもらったり、自宅ではトイレに近い生活空間の工夫やベッドの側にポータブルトイレを置くことも対策となる。冷え性の場合は、体を冷やさない服装や部屋を温かくする工夫をしてもらうなど、患者さんの行動習慣や生活環境を踏まえたうえで、きめ細かな指導を行っていく。
「膀胱訓練の場合は、少しずつ排尿する間隔を延長していただき、膀胱容量を増加させる訓練を行います。理学療法として、骨盤低筋体操を勧めることもあります。骨盤低筋を意図的に収縮させることで排尿筋収縮の反射を抑制する効果が期待されます。これは筋力トレーニングでもありますので、継続的な実施が求められます。また、バイオフィードバック療法といって、筋電図や膣圧計などを使って骨盤低筋の収縮度を認知し、本人に伝えることで骨盤低筋訓練の効率化を図ることもあります」。

排泄介助は、言葉の通り排泄の誘導を行うこと。過活動膀胱は尿意切迫感だけでなく、尿失禁してしまうこともあるので、そうなる前にトイレに連れていく必要がある。一日の中でトイレに行く時間を決めて誘導したり、排尿日誌をつけてもらうと、何時頃トイレに行くことが多いのか把握することができるので、そのパターンを見計らってトイレに誘導する方法もある。
これらが行動療法で薬物療法と並行して実施する標準的初期治療だが、このほかに骨盤低筋に低周波の刺激を与える電気療法などもあると國枝副院長は付け加える。
ところで、日々の生活の中で頻尿や尿失禁があるからといって水分の摂取を控える向きがあるかもしれないが、水分を減らすと膀胱炎や脱水症状を起こすこともあるので、消極的に考えず適度な水分は必ずとったほうがいい。
「少し専門的な言い方になりますが、神経伝達物質であるアセチルコリンが膀胱のムスカリン受容体(神経を働かせるための信号を受け取る部分)に結合すると、膀胱が収縮します。抗コリン薬はその収縮を抑制する働きをもっています。
しかしながら、ムスカリン受容体は全身にもあり、抗コリン薬が他の部分にも効いて副作用を起こすことがあります。その最も多い症状が口渇と便秘です。近年は副作用の少ない薬が開発されており、また、貼付薬や座薬も開発中で、治験中の段階だと聞いています」。
薬物療法と並行して行動療法を行うと、より治療効果が高まるという。行動療法は患者さんに応じてさまざまな指導が行われているが、大まかな内容として@生活指導A膀胱訓練B理学療法C排泄介助、の4つに分類することができる。
生活指導では、水分や利尿作用のあるカフェインを摂り過ぎだったり、尿漏れがあれば、それに対応する生活習慣を身につけられるよう指導する。頻尿の場合は外出前にトイレの場所を確認しておいてもらったり、自宅ではトイレに近い生活空間の工夫やベッドの側にポータブルトイレを置くことも対策となる。冷え性の場合は、体を冷やさない服装や部屋を温かくする工夫をしてもらうなど、患者さんの行動習慣や生活環境を踏まえたうえで、きめ細かな指導を行っていく。
「膀胱訓練の場合は、少しずつ排尿する間隔を延長していただき、膀胱容量を増加させる訓練を行います。理学療法として、骨盤低筋体操を勧めることもあります。骨盤低筋を意図的に収縮させることで排尿筋収縮の反射を抑制する効果が期待されます。これは筋力トレーニングでもありますので、継続的な実施が求められます。また、バイオフィードバック療法といって、筋電図や膣圧計などを使って骨盤低筋の収縮度を認知し、本人に伝えることで骨盤低筋訓練の効率化を図ることもあります」。

排泄介助は、言葉の通り排泄の誘導を行うこと。過活動膀胱は尿意切迫感だけでなく、尿失禁してしまうこともあるので、そうなる前にトイレに連れていく必要がある。一日の中でトイレに行く時間を決めて誘導したり、排尿日誌をつけてもらうと、何時頃トイレに行くことが多いのか把握することができるので、そのパターンを見計らってトイレに誘導する方法もある。
これらが行動療法で薬物療法と並行して実施する標準的初期治療だが、このほかに骨盤低筋に低周波の刺激を与える電気療法などもあると國枝副院長は付け加える。
ところで、日々の生活の中で頻尿や尿失禁があるからといって水分の摂取を控える向きがあるかもしれないが、水分を減らすと膀胱炎や脱水症状を起こすこともあるので、消極的に考えず適度な水分は必ずとったほうがいい。
日本排尿機能学会が2002年に行ったアンケート調査について前述したが、過活動膀胱の症状がある人のうち、少しでも生活に影響があると答えた人は53%に上っている。これを40歳以上人口で換算すると、実に400万人以上の人が生活に影響を及ぼす症状を抱えていることになる。内訳として、心の健康(41.9%)、活力(36.9%)、身体的活動(33.9%)、家事・仕事(28.7%)、社会活動(22%)という状況となっている。
過活動膀胱の症状がある人の中で受診者の内訳をみると、男性36.4%、女性7.7%と男女差が明確に出ていることがわかる。
「日本全体の過活動膀胱の受診率は低く、とくに女性の場合は10人に1人も受診していなく、その低さが際立っています。実際には最初から『恥ずかしい』『歳だから』『病気ではない』などと考えてしまい、我慢している方が多いのではないでしょうか。過活動膀胱は治療して治る病気です。それを知らないために、日常生活を快適に過ごすチャンスを逃している方が大勢いらっしゃることが残念でなりません。我々医療者の側も治る病気だという啓発活動が不足していたといえるでしょう。症状のある方は早めに受診して、一日も早く日常生活を有意義に過ごして頂ければと思います」。
最後に「過活動膀胱の症状質問票」を紹介しておこう。一週間の中で自分自身の状態に最も近いものを一つ選び、重症度を判定するスコアとなっている。自己診断の目安としていただきたい。

過活動膀胱の症状がある人の中で受診者の内訳をみると、男性36.4%、女性7.7%と男女差が明確に出ていることがわかる。
「日本全体の過活動膀胱の受診率は低く、とくに女性の場合は10人に1人も受診していなく、その低さが際立っています。実際には最初から『恥ずかしい』『歳だから』『病気ではない』などと考えてしまい、我慢している方が多いのではないでしょうか。過活動膀胱は治療して治る病気です。それを知らないために、日常生活を快適に過ごすチャンスを逃している方が大勢いらっしゃることが残念でなりません。我々医療者の側も治る病気だという啓発活動が不足していたといえるでしょう。症状のある方は早めに受診して、一日も早く日常生活を有意義に過ごして頂ければと思います」。
最後に「過活動膀胱の症状質問票」を紹介しておこう。一週間の中で自分自身の状態に最も近いものを一つ選び、重症度を判定するスコアとなっている。自己診断の目安としていただきたい。

